図書情報室

なぜ私は凍りついたのか―ポリヴェーガル理論で読み解く性暴力と癒し

なぜ私は凍りついたのか―ポリヴェーガル理論で読み解く性暴力と癒し

74/ハ

花丘ちぐさ/編著

春秋社

SNSでの#MeToo運動等により、大きく動いた日本の性暴力理解。性犯罪を罰する強制性交等罪には「暴行脅迫要件」が残り、被害が法的に認められるには、被害者が脅迫などにより「抵抗できなかった」ことを、被害者自身が立証しなくてはならない。しかし、“同意していなかったのなら抵抗できた”とは限らない。なぜなら、抵抗したくても身体が動かない、声が出ない等の「凍りつき」状態に陥ることが少なくないからだ。
本書は、そのような生命の危機などの切迫した状況で「凍りつき」を引き起こす、自律神経の反応を明らかにした「ポリヴェーガル理論」をトラウマ・性暴力被害の視点で掘り下げる。被害者が置かれる状況への社会の無理解と、現在の刑法の不足を突き付けられる。被害者を信じ、寄り添う人になるために、手にとっておきたい一冊。


どうして男はそうなんだろうか会議─いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと

どうして男はそうなんだろうか会議─いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと

08/ド

澁谷知美 清田隆之/編

筑摩書房 

男性性の研究者やライターを複数ゲストに迎え、男性のジェンダーの問題について語り合った対話集。
男性の「生きづらさ」等に見られる「被害者性」と男性の「優位性」等に見られる「加害者性」の両方に丁寧にアプローチすることで、その両方が複雑に絡まりあっていることに気づかされるとともに、会議参加者の様々な視点を通して、「どうして男はそうなんだろうか」ということが紐解かれてゆく。
男性性をめぐる問題はまだまだ多い。「これからの男」を模索するのに、まずはこの本から始めることをおススメしたい。

フェミニスト・シティ

フェミニスト・シティ

05/カ

レスリー・カーン/著 東辻 賢治郎/訳

晶文社

本書におけるフェミニズムの視点は、インターセクショナリティ(交差性)と呼ばれる概念を基本としている。インターセクショナリティとは、性別、人種、階級、性的指向などのカテゴリーやその経験を同一とみなさず、様々な立場が組み合わさることによって起こる差別の現状や構造を可視化し、その状況を克服するための概念だ。
著者は、これまで男性中心に計画・構築されてきた近代都市において、男性以外の人々にとって困難を強いてきた物理的、社会的な障壁の存在を指摘しつつ、人々の生き方や社会の変化に寄り添い、差別のない都市へと再構築する手掛かりとして、自身の経験を語っている。母親の立場、友人と生きる、ケアの共有、働くこと、ひとりでいること、恐怖や暴力など、私たちにも共通する経験の中にどんな問題があり、都市設計においてどんな可能性が追及できるのかといった思索を巡らせていく。また、都市の「余白」で生まれるコミュニティにふれ、それが都市の個性となることなど、人が多様ならば目指す都市のあり方も同一ではないことも示唆する。私たちはどんな都市のありようを望むのか、都市が持つ様々な可能性に思いをはせてみるのも面白い。

考えたことなかった

考えたことなかった

YA/101/ウ

魚住直子/著

偕成社

主人公颯太は中学2年生。この物語で颯太が経験するのは、日常によくあることにすぎない。言葉を話すネコに出会うということ以外は。
家事はそばを打ったことがあるくらい、という祖父、手伝いを妹にしか促さない祖母。デートでは女の子におごらなければと思ってしまう颯太。物語は、猫と話すことで颯太が自身にもすりこまれている無自覚な「男らしさ」の呪縛や、日常生活にうめこまれた性差別に気づいてゆく様を描く。
私たちは、幼い頃から「男らしさ・女らしさ」についての多くのメッセージを社会のいたるところから受け取っており、自覚がないままに価値観形成に影響を受けている。それに違和感を覚えたとき、変わっていくことは何歳からでもできる。物語からは作者のあたたかいメッセージが伝わってくる。

女性兵士という難問~ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学~

女性兵士という難問~ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学~

95/サ

佐藤文香/著

慶應義塾大学出版会

ロシアがウクライナに侵攻して半年以上。連日メディアに取りあげられている。ウクライナ側に多数の女性兵士がいるらしいことも、それを通して知った。
今世紀に入り、各国の、男性的な制度である軍隊に女性兵士が増え、その役割を拡大し続けている。しかし、人数の差が縮まることを男女平等の進展と簡単に評価してはならない。本書によれば、女性兵士に求められる役割と効果は、男性兵士とは異なることがよく分かる。ウクライナの女性兵士たちはどのような意図で、その姿をメディアに映し出されているのだろうか。
女性兵士の存在は、肯定しても否定しても違和感がつきまとう。そのことを考えるにはジェンダーの視点を含む多角的な視野が必要で、まさに「難問」を突き付けられているのだ。

差別は思いやりでは解決しない~ジェンダーやLGBTQから考える~

差別は思いやりでは解決しない~ジェンダーやLGBTQから考える~

05/カ

神谷悠一/著

集英社新書

筆者が受け持つジェンダーに関する大学の授業や企業の研修でのレポート、アンケートでは、「思いやり」「心がけ」「配慮」といった言葉が多く出てくるという。
ただ、それらのフレーズは心の問題であり、それだけでは差別は解消されない。
たとえば、アンコンシャス・バイアス。無意識に持っている偏見を、どうやって思いやりで解決できるのだろう。
筆者は、ジェンダーとLGBTQの2つの観点からそこに見えてくる課題を提示し、現行の法制度の到達点と問題点を考察する。そして「思いやり」から脱して社会を変えていくためには、一定の基準となる「制度」や「法律」で解決すべきだと述べる。
自身の人権意識を再考するのに読んで欲しい一冊である。