図書情報室

これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー

これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー

67/キ

カトリーン・キラス=マルサル/著 

河出書房新社

本書では、経済が今までいかに男性優位の価値やルールに支配されてきたか、また女性のニーズが無視されてきたかを解説している。
例えば「重いスーツケースは男性が持つもの」「動かすのが難しいガソリン車は男が運転するもの」といった固定概念が、キャスター付きスーツケースや電気自動車の発展を遅らせたことなどを例に挙げ、ジェンダー観が発明やイノベーションの足枷となってきたと著者は語る。
ジェンダーを切り口にしているが、本書はまた同時に、私たちの周りに潜むアンコンシャスバイアスに気づくきっかけにもなるだろう。

魔法少女はなぜ世界を救えなかったのか?

魔法少女はなぜ世界を救えなかったのか?

05/ペ

ペク・ソルフィ、ホン・スミン/著 渡辺麻土香/訳

晶文社

私の魔法少女の一番古い記憶はサリーちゃんとアッコちゃんだ。子どもと観た「おジャ魔女どれみ」や「プリキュア」シリーズも懐かしい。
さて、思い出はともかく、不思議な力を持って戦う少女から、視聴者の女の子たちは何を受け取ってきただろう。華麗に敵を倒し、友人を助け、世界の平和を守る。そんな大仕事を、自分と同じような女の子がやってのけている。自分にもできるかもという身近さや、生きる自信かもしれないし、キラキラのかわいい衣装を見せられて女性性を上書きされたかもしれない。この二面性、かなり複雑だ。
さらに、そのキャラクターを作っているのは大人で、男性が大半で、そもそもビジネスの上で成立する存在であることを私たちは忘れがちだ。魔法少女、ディズニープリンセス、おもちゃ、ゲーム、アイドルなど、少女たちをターゲットにした数多のコンテンツが放つ相反するメッセージをどう受け取るか。本書はそのジレンマや問題点を洗い出す。

ジェンダー目線の広告観察

ジェンダー目線の広告観察

122/コ

小林美香/著

現代書館

街やネットに溢れる広告。それらに対して著者が始めたのが、広告をジェンダー視点で読み解く「広告観察日記」だ。
例えば女性向け脱毛広告は従来、「ムダ毛」への嫌悪感を煽り、脱毛へと駆り立てるメッセージが主流だった。しかし近年の「ルッキズム(外見で良し悪しを判断すること)」批判を経て、脱毛は“女性に力を与え、「自分らしさ」を高める手段である”とする広告が目立つようになったという。それらは一見“よい変化”に見える。しかし著者は問う。たとえ目的が「自分らしさ」の獲得へとすり替わったとしても、外見を重視し、それを磨く“能力”を高めることを迫るプレッシャーはなんら変わっていないのではないか、と。
広告の体をしてジェンダーにまみれる公共空間。しかし、決して受け身には終われない。それらをまなざすこと、読み解くこと、語ることこそが一つの抵抗なのだと、本書は教えてくれる。

フライガールズ 逆境を乗り越えた五人の女性パイロット

フライガールズ 逆境を乗り越えた五人の女性パイロット

04/オ

キース・オブライエン/著 小林政子/訳

国書刊行会

1920年代、男性パイロットに交じってスピードと距離を競う航空レースに挑んだ5人の女性パイロットが繰り広げる壮絶な事実の物語。
当時、女性は飛行に適さないという考えが一般的であったため、女性パイロット達は航空レースに挑むことによって、批判と嫌がらせの嵐に晒された。それでも、彼女達は、レースに出場し「女性は男性と同一の待遇を受けるべきだ」と訴え、行動し、闘い続けた。そして、遂にレースで優勝を手にする。この優勝を機に他の女性達の可能性も広がった。
男性社会の中で、女性が自己実現のために懸命に生きる姿は100年前とは思えず現代に通じるものがある。こんなにも闘い続けた女性達がいた事実にエネルギーをもらえる。

フェミニスト紫式部の生活と意見 現代用語で読みとく「源氏物語」

フェミニスト紫式部の生活と意見 現代用語で読みとく「源氏物語」

100/オ

奥山景布子/著

集英社

世界が認める日本文学における第一級の古典「「源氏物語」の魅力を、「フェミニズム」「ジェンダー」「ルッキズム」など現代のキーワードをもとに読み解いている。
「源氏物語」が書かれた当時は、漢字で書かれる漢詩は男性のもの、仮名で書かれる物語は女性のものといった「ジェンダー」が存在し、仮名で書かれた物語は、「おんなこども」の娯楽、サブカルチャーと格付けされていたという。
しかし「源氏物語」には、漢籍(漢文で書かれた書物)の深い知識が盛り込まれており、当時の世間一般の価値観への違和感や、それに抗いたい思い、あるいはこうあってほしいという願いが、登場人物の悩みに寄り添う形でさまざまに進化、深化していると著者は述べている。「源氏物語」は古典だからと不問に付さず、本書をぜひ手にとってもらいたい。

性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか

性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか

81/ビ

マリーケ・ビッグ/著 片桐恵理子/訳

双葉社

私たちは現代の医学や科学に対しどのような印象をもっているだろうか。正確で、合理的、客観的。平等。そしてジェンダーニュートラル。本当にそうなのか。
男性中心に構築されることの多かった社会の中で、医学もまた男性が牽引してきた分野であった。その経験や成果が「男性の身体」を基準としてきたことは自明であり、ジェンダーバイアスを否定できない。
だが、男女の身体の差異は生殖機能のみにあらず。人間の体に起こる様々な事象の男女差を慮ることなく行われる医療で本当に正しい選択ができているのか。そもそも「非男性の身体=女性」でもない。
まずは、私の身体を知ることから。そして、家父長制的な社会文化としての医療ではなく、「すべての身体」のための医療を求め続けたい。