図書情報室

未来をはじめる 「人と一緒にいること」の政治学

30/ウ

宇野重規/著

東京大学出版会

政治思想研究者の女子中高生に向けた連続講義。人とのつながり、格差、働き方、選挙制度、民主主義等をテーマに、人と一緒にいることで生じる基本的な感覚から、政治を考える試みの軌跡である。
白眉は著者が「一番大切な回になる」と予告した第三講だ。スクールカーストという学校の日常を糸口に、著名な哲学者であるルソー、カント、ヘーゲルの言説と横顔を紹介し、思想とは、具体的な苦しみや悩み、要求から生まれるものであると理解させ「自由でありながら、人と一緒にいる方法」を自ら考え導き出すことの大切さを説いている。その過程で生じる高校生の真摯な問いが、さらに読者の思考を促してゆく。巻末の座談も面白い。
最後のメッセージとして、政治思想家ハンナ・アーレントの4つの言葉が紹介されている。著者が最も素敵だと思う言葉は「人間が生まれてきたのは始めるためである」だそうだ。あなたに響くのはどの言葉だろうか。

コロンタイ 革命を駆けぬける

05/ス

杉山 秀子/著

論創社

ソ連といえば、世界初の社会主義国であるということ以上に私たちが知っていることはあまり多くない。コロンタイの名も、彼女が世界初の女性外務大臣となったことも。
ソヴェート政権の草創期、男女同権は社会の必須であり、国家保護人民委員(社会保障を担当する大臣)を命じられた彼女が相当な情熱と責任感を持ってその任を務めたことは想像に難くない。本書では、ソヴェート政権が目指した平等な社会において、男女同権を実現するために奔走したコロンタイが、どのような理論で母性と子どもの権利を守ったのかを明らかにする。
そして、彼女が手掛けた家族法-結婚や家族の在り方-の推移から、今日に至るまでのロシア社会の女性の置かれた状況はどう変わったのか、あるいは何が変わらなかったのかを知る。目指す男女共同参画社会実現への端緒としたいものである。

闘うフェミニスト政治家 市川房枝

02/シ

進藤久美子/著

岩波書店

市川房枝は、第二次世界大戦の前後にわたり、日本の婦人参政権運動を主導した一人である。彼女は「政治は生活を守るためにある」を政治理念とし、金権政治を許さず女性の基本的人権と平和を守るために活動を続けた。
日本の女性が参政権を得て70年を超えた。しかし、未だ国会議員における女性の割合はわずかに衆議院で10.1%、参議院で20.7%にすぎない。2018年には「政治分野における男女共同参画推進法」が成立したが、まだまだ女性の声が十分に政治に届いているとは言い難い。真の女性の政治参画が求められる今こそ、彼女の足跡をふり返ってみることが、私たちの今後に活かされていくのではないだろうか。

ケーススタディ 職場のLGBT~場面で学ぶ正しい理解と適切な対応~

78/テ

寺原真希子/編集代表

ぎょうせい

職場でのLGBT(セクシュアル・マイノリティ)対応の重要性が増している。しかし実際には、どのように対応すべきか悩む企業も多いのではないだろうか。この本は、弁護士でもある筆者が、相談を通じて目の当たりにした当事者の具体的で切実な苦悩について、また企業研修などを通じて浮き上がった実際の職場での対応について、Q&A方式で書かれており、非常に分かりやすい。
今や、社会全体においても、セクシュアル・マイノリティへの正しい理解は必至である。この1冊をそばに置いて、職場のセクシュアル・マイノリティ対応にぜひ活用してほしい。

シングル単位思考法でわかる「デートDV予防学 」

74/イ

伊田広行/著

株式会社かもがわ出版

「恋人はこうあるべき」・・・その常識がデートDVにつながることを知っているだろうか?
著者は、これまで常識と思われていた「ふつうの恋愛観」を修正し、人間関係の理解を「カップル単位」から「シングル単位」の考えに変えることがデートDVの予防につながると言う。「シングル単位」とは、「相手は相手、自分は自分」と、お互いを一人ひとりの異なる存在と捉えることであり、対等な関係を築くために必要な考え方だ。
そのうえで、「明らかにDV」と「DVではない」の中間にあるグレーゾーンを図で表し、学生の事例や意見なども紹介することで、デートDVをどのように理解し整理すればよいかを分かりやすく示している。DVやストーカーの加害者・被害者にならないために、これまで常識と思われていた恋愛感覚を見直すきっかけにしてほしい。

THE LAST GIRL イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語

74/ム

ナディア・ムラド ジェナ・クラジェスキ/著

東洋館出版

サヴァイバー(生き残った者)とは、まさにこの人の事を指すのだろう。本著は、当時17歳のナディア・ムラド氏が、イスラム国(IS)の戦闘員に"計画的に"拉致され、性奴隷として何人もの男たちに"転売"されるという惨たらしい暴力を受けながらも、そこから脱出するまでの一部始終を語ったドキュメンタリーである。少数宗教のヤジディ教徒というアイデンティティや生まれ育った村、そしてナディアの家族が、徹底した暴力によって略奪、破壊される様子が詳細に書き綴られた証言録でもある。
生まれ育った小さな村、コーチョに美容院を開くことが夢だった17歳の少女に襲いかかった、過酷すぎる現実。ナディアがなぜこのような人生を辿ることになってしまったのか、本著のタイトル「最後の少女」に込められた願いとは何かを知れば、あらゆる世代、性別、文化の多くの人に読まれるべき1冊であり、遠く見知らぬ場所、自分とは関係のない人々の話ではないと納得できるだろう。ナディアはノーベル平和賞を受賞した際、こう語った。「受賞はうれしい。でも、私たちにとっては何も終わっていません。あの日の記憶は消えないし、ISも壊滅していない。何より人々が今も苦しんでいます」と。