図書情報室 図書情報室

76/ナ

江戸の異性装者(クロスドレッサー)たち セクシュアルマイノリティの理解のために

長島 淳子/著

勉誠出版

 今、十分とは言い難くも、セクシュアルマイノリティについての認知は進みつつある。勇気をもって声をあげる当事者がいて、権利保障の法整備、行政の対応も進展している。性科学、性医学、発達心理学等の研究により、長年、病理や異常と捉えられてきたセクシュアルマイノリティ像が覆されたことも大きい。だが、未だに差別や偏見の解消にはほど遠い、というのもまた真実である。
 科学・心理学等が未発達な時代ではなおさら、その存在は「理解できないゆえの恐怖」を社会やその為政者に与えたのではないか。本書では、江戸後期に生きた"竹次郎事たけ"と呼ばれた人物-女として生まれたが、男の身なりを選び、自ら竹次郎と名乗った-を取り上げているが、そこにはアイデンティティを貫くことの困難を垣間見ることができる。一人ひとりの生きやすさとは何であるかを改めて考えたい。

92/ヒ

介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析

平山 亮/著

勁草書房

 本著は「親の介護を余儀なくされる息子が近年増加」といったドキュメント本ではない。男性であることを根源的に問う「男性学」の分野でこれまで全く語られてこなかった新しい視点を持った1冊である。
 まず、息子が介護のなかで、弱者をコントロールせずにはいられない「男らしさ」という病が露呈してしまう点、また「介護でいかに苦しんでいるか」の告白が、「弱さの自己開示」ではなく、困難に立ち向かう「強さの自己呈示」として示される点、さらに「息子介護」が、女きょうだいや妻によるケア労働の「お膳立て」(下駄を履かせ、段取りしてもらっている)が織り込み済みで成立している虚構(フィクション)である点など、介護に限らず家事・育児に関しても膝を打ちたくなるようなポイントは、快挙にいとまがない。
 「『男性がいかにしてケアすることができるのか』という問いは、男性優位のジェンダー秩序を前にして『男性はいかにして変われるか』という問いそのものである」という筆者。介護を軸にしたジェンダー分析が、「より広く不平等な社会をどう変えていくか」につながるかのメッセージも込めているという。

101/タ

徴産制

田中 兆子/著

新潮社

 ものがたりの舞台は、深刻な人口問題を解決するため、国民投票により男性に出産を義務化する「徴産制」が課せられた社会。経済的な理由で「産役」を志願する農家のひとり息子、義務を果たしたら男に戻りたいエリート官僚、死に別れた妻を忘れられない男、夫が女になることを嫌悪する妻を持つ主夫など、考え方も境遇も異なる5人を短編で描く。
 多様化していく「性」「恋愛」「結婚」「家族」「介護」など、彼らが抱える苦悩や葛藤は、現在の日本にも通じる悩みだ。女性に課せられる社会規範や慣習、モラルなど、現実を反転させたことで、ジェンダーをめぐる社会の矛盾や不自由さ、残酷さなどが尖り出る。古い価値観を笑い、誰もが自分なりの幸福を見出せることを祈った注目のディストピア作品。

51/タ

世界で働く人になる!実践編 ~グローバルな環境でたくましく生きるためのヒント26~

田島 麻衣子/著

アルク

 本書の著者は、生活の拠点をほぼ海外に置く世界で働く国連機関職員。自らの経験と実践をもとに、「世界で働く力」をつけるために何が必要かをわかりやすくまとめられている。
 ハードルの高い内容を想像するが、世界で働くということについて基本的な考え方や、生き抜くためのコツ等、だれもが読みやすい章立てになっている。
 グローバルな職場環境の中で、日本人だからこそ発揮できるリーダーシップのあり方や、10年単位で考えるワーク・ライフ・バランスの考え方は、現在日本で働く人にも大いに役立つ内容である。

YA/ジ

大統領を動かした女性ルース・ギンズバーグ 男女差別とたたかう最高裁判事

ジョナ・ウィンター/著 

汐文社

 1993年、米国で2人目の女性最高裁判所判事に任命されたルース・ギンズバーグ。男性と平等の権利を!という女性の権利拡大に大きく貢献しただけではなく、男女間の不平等は男性も女性も傷つけるという論理を展開した。ジェンダー(男性とは〇〇であるべき、女性は〇〇であるべきという考え方)で、人を型にはめることに反対、「男女平等の権利」という考え方を広めた一人でもあった。また顔写真入りのTシャツまで作られたという"ちょっとしたロックスター"並みの人気があったというルース。
 本書はそんな彼女の伝記であり、ニューヨークタイムズの2017年ベスト絵本賞に選ばれている。現在85歳の彼女の徹底した姿勢は、ヤングアダルトだけではなく、「差別」と向き合うあらゆる人々に、勇気をもたらしてくれる。

05/コ

戦う姫、働く少女

河野 真太郎/著

堀之内出版

 『ジブリの少女やディズニープリンセスは何と戦い、どう働いたのか。』帯のこの言葉が興味をひく。表紙では、甲冑を身につけ、鏡をのぞきこんだ『姫』。しかして、鏡に映る姿は現代の働く女性、いわゆる『OL』だ。
 本書では、「アナ雪」「ナウシカ」「逃げ恥」など、メジャーなアニメやドラマなどを題材に、今の時代の個人と労働との関わり方を読み解いていく。
 ポスト・フェミニズム ― フェミニズムを過去のものとする思想 ― 台頭以降、女性たち、というより私たちのつながりは、勝ち組と負け組に分断され、成功も失敗も個人の問題に矮小化され、見えないものとなっていきつつある。ヒロインたちの描かれ方を物語の大筋からではなく「働く」という視点から切り取ることで、改めて女性たちの連帯の可能性を私たちに呼びかけている。