図書情報室

働きたいのに働けない私たち

働きたいのに働けない私たち

57/チ

チェ・ソンウン/著

世界思想社

本書に描かれている韓国女性の労働環境は、日本女性の状況によく似ている。長時間労働が当たり前の職場において、男性たちと同じように長時間労働を求められながら、子育てや家事も母親の責任として求められているような点である。
韓国の子持ち高学歴女性は労働市場から退場していく。なぜ韓国女性は高学歴であっても労働市場を離れることになるのか。
スウェーデンやアメリカの労働福祉政策との比較から、広い視点で何が韓国社会に必要か、個人の問題ではなく、社会の問題として、韓国の労働市場の歴史を踏まえながら確かめていく。
巻末には、日本の女性に向けた著者からの補論、専門家による日本の高学歴女性の現状についての解説もあり、日韓双方の女性の労働状況についても考察できる。

あなたのフェミはどこから?

あなたのフェミはどこから?

05/ア

安達茉莉子ほか/著

平凡社

文筆家、写真家、彫刻家、翻訳家、編集者、ライター、演出家、イラストレーター、学者、ソーシャルワーカー、精神科医など19名の著者が自身のフェミニズムはどこからきたのかについて、自らの半生に向き合ったエッセイ集。ベル・フックスの『フェミニズムはみんなのもの』を通じてフェミニズムを知り、しばしば感じていた生きづらさが解けていった著者も多い。どの読者もエッセイの中で自分自身を重ねる瞬間がきっとあるはずだ。多様な視点の中で共感したり、同感したり、時には違和感を覚えながら、自分もフェミニストであること、それが間違いではなかったことに気づくだろう。フェミニズムに出会い、繋がり、受け取り、そしてまた渡していく。そんな感覚を味わえる一冊だ。

女の顔をした中世 ベルギー・オランダの都市と女性たち

女の顔をした中世 ベルギー・オランダの都市と女性たち

04/オ

J.ハーメルス、A.バルディン、C.ドゥラメイユール/編 青谷秀紀/訳

八坂書房

中世=「暗く、女性にとって閉ざされた時代」というイメージを持っている人は多いことだろう。本書は13世紀~15世紀中期までのネーデルラント諸都市に住まう女性たちの生涯や営みを裁判資料等の史料から読み解く。女性自ら調停を申し出て権利を主張した記録も多く、他の地域に比べ教育や経済活動への参加機会に恵まれていたことがうかがえる。商人・職人・娼婦など、彼女たちの職業や身分は様々だが、信仰を軸とした互助会であるベギンの存在は重要だ。半聖半俗の女性達は教育・看護・紡績を生業とし、私有財産を所有できた。「聞き書き」のように再現された生き様からは、中世の女性は決して受動的ではなく、自らの人生を切り開いていたことが実感される。固定観念を覆し、歴史の奥行きを教えてくれる一冊だ。

職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム

職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム

58/コ

小林淳子/著

現代書館

ジェンダー・ハラスメントは、「男女」という2つの性で人間を二分し、それに紐づけられた特性によって、他人のあり方を決めつけることなので、物事を理解する指標を多く持っていれば、これを抑止できると著者は言う。本書ではジェンダー・ハラスメントの実態を明らかにして、防止する研修効果を分析し、日本での研修をめぐる問題点と課題に対し、いかに戦略的に対策を行うかを解説している。特に原因の1つであるアンコンシャス・バイアス「無意識の思い込み」は、気づかずに持っている偏見であり、自身ではなかなか制御できない。だからこそ、誰もがアンコンシャス・バイアスを持っていることを前提に、社会の制度を点検し構築していくことが重要である。

複雑性PTSDの理解と回復

複雑性PTSDの理解と回復

82/シ

アリエル・シュワルツ/著 野坂祐子/訳

金剛出版

複雑性PTSDは、虐待やネグレクト、DVなどのトラウマ体験が繰り返されることで起こる。本書は、トラウマ治療を専門とする著者が、小児期のトラウマによる複雑性PTSDの回復に向けて著した実践的ガイドだ。トラウマのメカニズムや症状を丁寧に解説しながら、自分を思いやる「セルフコンパッション」に焦点を当て、近年注目されているソマティック・アプローチやマインドフルネスを取り入れたセルフケアの方法を紹介している。訳者もまた臨床心理士として、虐待や性暴力によるトラウマに向き合ってきた経験をもち、その視点が原著の核心をより豊かに伝えている。回復の道を歩むための支えとなる一冊。

春はまた来る

春はまた来る

101/マ

真下みこと/著

幻冬舎

女子大に通う紗奈と名門大学の理工学部に通う順子は高校で交友のなかった同級生。この全くタイプの異なる二人が大学生になり再会し徐々に親しくなる。そんなある日、紗奈が性被害に遭う。被害と多くの誹謗中傷に深く傷つき苦しむが、順子がそばで寄り添ってくれることで自分を取り戻していく。
性犯罪は、身近なものではないかもしれない。しかし、性被害に遭ったのが自分や身近な人だったらと置き換え、自分だったらどうするかを考えながら読んでみて欲しい。社会が女性を分断する構造になっていることを知ると同時に、女性が連帯することの重要性についても気づくだろう。