図書情報室
女の顔をした中世 ベルギー・オランダの都市と女性たち
04/オ
八坂書房
中世=「暗く、女性にとって閉ざされた時代」というイメージを持っている人は多いことだろう。本書は13世紀~15世紀中期までのネーデルラント諸都市に住まう女性たちの生涯や営みを裁判資料等の史料から読み解く。女性自ら調停を申し出て権利を主張した記録も多く、他の地域に比べ教育や経済活動への参加機会に恵まれていたことがうかがえる。商人・職人・娼婦など、彼女たちの職業や身分は様々だが、信仰を軸とした互助会であるベギンの存在は重要だ。半聖半俗の女性達は教育・看護・紡績を生業とし、私有財産を所有できた。「聞き書き」のように再現された生き様からは、中世の女性は決して受動的ではなく、自らの人生を切り開いていたことが実感される。固定観念を覆し、歴史の奥行きを教えてくれる一冊だ。
職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム
58/コ
現代書館
ジェンダー・ハラスメントは、「男女」という2つの性で人間を二分し、それに紐づけられた特性によって、他人のあり方を決めつけることなので、物事を理解する指標を多く持っていれば、これを抑止できると著者は言う。本書ではジェンダー・ハラスメントの実態を明らかにして、防止する研修効果を分析し、日本での研修をめぐる問題点と課題に対し、いかに戦略的に対策を行うかを解説している。特に原因の1つであるアンコンシャス・バイアス「無意識の思い込み」は、気づかずに持っている偏見であり、自身ではなかなか制御できない。だからこそ、誰もがアンコンシャス・バイアスを持っていることを前提に、社会の制度を点検し構築していくことが重要である。
複雑性PTSDの理解と回復
82/シ
金剛出版
複雑性PTSDは、虐待やネグレクト、DVなどのトラウマ体験が繰り返されることで起こる。本書は、トラウマ治療を専門とする著者が、小児期のトラウマによる複雑性PTSDの回復に向けて著した実践的ガイドだ。トラウマのメカニズムや症状を丁寧に解説しながら、自分を思いやる「セルフコンパッション」に焦点を当て、近年注目されているソマティック・アプローチやマインドフルネスを取り入れたセルフケアの方法を紹介している。訳者もまた臨床心理士として、虐待や性暴力によるトラウマに向き合ってきた経験をもち、その視点が原著の核心をより豊かに伝えている。回復の道を歩むための支えとなる一冊。
春はまた来る
101/マ
幻冬舎
女子大に通う紗奈と名門大学の理工学部に通う順子は高校で交友のなかった同級生。この全くタイプの異なる二人が大学生になり再会し徐々に親しくなる。そんなある日、紗奈が性被害に遭う。被害と多くの誹謗中傷に深く傷つき苦しむが、順子がそばで寄り添ってくれることで自分を取り戻していく。
性犯罪は、身近なものではないかもしれない。しかし、性被害に遭ったのが自分や身近な人だったらと置き換え、自分だったらどうするかを考えながら読んでみて欲しい。社会が女性を分断する構造になっていることを知ると同時に、女性が連帯することの重要性についても気づくだろう。
ふたり暮らしの「女性」史
03/イ
講談社
まだ、「ジェンダー」や「セクシュアリティ」という言葉や概念もなかった明治・大正・昭和の時代に、結婚や家族ではないパートナーシップを選びとり、「女性どうしのふたり暮らし」をしていた人々がいた。日本人女性初のオリンピックメダリストである人見絹枝や、大阪の近代商業を推し進めた五代友厚の娘・五代藍子などである。
本書に登場する主人公たちは、陸上選手、新聞記者、パイロット、鉱山師、騎手など、戦前期の「女性」としては珍しい職業を選んだ人ばかりだ。ただ共通するのは、世間が求める「あるべき女性像」も「家族」も拒み、怒り、違和感を言葉や行動で示したということだ。
本書は、「こう生きよ」とあらかじめ方向づけられた生き方ではない、自らの生を追い求めた「女性」たちの歩みを読み解くことができる。
つくられる子どもの性差 「女脳」「男脳」は存在しない
76/モ
光文社
「男脳・女脳」を主題にした本に関心を示す人は多く、いまも人気のテーマだ。「男女で得意・不得意は異なる」といった性差を先天的とする考えは、自分を肯定し安心する材料になるのだろう。本書は心理学・脳神経科学の膨大な先行研究に基づき、「好み」「空間認知」「言葉」「攻撃性」「学力」「感情」の性差をデータで分析。「男脳」「女脳」が科学的根拠に乏しいことや、子どもの性差が大人の思い込みによって後天的に形づくられることを明らかにする。
多くの場合、大人は自分が子どもに影響を与えていることに無自覚なため、意図せず性差を作り出し、子どもたちの進路選択にも影響してしまう。これを自覚するためにも、大人、特に子育てや教育に関わる人に読んでほしい。