図書情報室 図書情報室

08/ナ

広がるミサンドリー~ポピュラーカルチャー,メディアにおける男性差別

ポール・ナサンソン,キャサリン・K・ヤング/著 久米 泰介/訳

彩流社

 ミサンドリーとは男性嫌悪、男性蔑視を意味し、本書では、「男は悪」「男は愚か」等の男性を蔑む視点が、ドラマや映画などにどう組み込まれ、人々に刷り込まれていくのかを、アメリカ、カナダの事例から読み解いている。 生まれながらの悪などあり得ない。にも関わらず、男性を邪悪な存在として描く作品を目にしても疑問を持たず、それどころか逆に、男性差別という言葉に違和感さえ持つ始末である。そこで初めて自覚するのだ。蔑視されるのは専ら女性の方だと思い込んでいたことを。  何事にも、固定的な、偏った考えにとらわれていないだろうか。自分も差別につながる視点を持ちうるのだということをいつも忘れずにいたい。

05/キ

性と国家

北原 みのり・佐藤 優/著

河出書房新社

 ここ数年,宗教,政治,ビジネスと視点を変え,国家論を読み解いてきた元外交官の佐藤優。佐藤は政争に巻き込まれ獄中にいた際,国家の持っている本質的な暴力性に気づき,さらに「これからはフェミニズムについて考えねば」と思い至ったという。差別が構造化されている場合,差別している側はそのことに気づかないのが通例である,ならば,ジェンダーに関して男性である自分が差別する側の認識不足を痛感し,思考を停止させてはいけないと。  本著では,フェミニストの北原みのりとの対論を続け,「慰安婦」問題など戦争と性について,アダルトビデオやロリコンといった日本の「性癖」,買売春と「自己決定」の関係など,まさに「性」と「国家」にまつわるあらゆる問題を縦横無尽に語りあっている。「男らしさ,女らしさ」といった言葉で象徴されるジェンダー論を,骨太な議論の対象として捉え直させてくれる1冊である。

78/ナ

NATIONAL GEOGRAPHIC 2017年1月号「ジェンダー革命」

日経ナショナル ジオグラフィック社

日経ナショナル ジオグラフィック社

 何と言っても本書の面白さは、多様化する「性」を写真という視覚を通じ、直感的に感じ取れる点である。加えて、世界中の文化・社会・科学といったあらゆる側面から性に関する豊富な事例や調査資料があり、読みごたえもある。
 広告やポップカルチャーの影響力の大きさとして、ディズニー映画に関する記事も興味深い。初期の作品では、女性の登場人物への褒め言葉の6割が容姿に関するもので、能力や行動を褒められる回数の7倍近くにのぼる。これは「自分の価値は見た目で決まる」ことを子どもたちに示唆してしまう。しかし、最近のディズニー映画では、容姿の美しさよりも能力、行動、勇気を褒める言葉が上まわってきているという。
 米国の人権団体の調査では、若者の半数が「性は明確な境界がない連続的な概念」と回答している。今後、性の概念がどのように変わっていくのか、本書はその未来像を垣間見せている。

05/ヒ

被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島「全記録」~ヒロシマという視座の可能性をひらく

高雄きくえ/編集・発行人

ひろしま女性学研究所

 本書の奥付に発行所として刻まれる「ひろしま女性学研究所」。その前身はかつてフェミニズム運動の一隅を照らしていたミニコミ誌「月刊家族」を発行していた家族社であるといえば、なるほどと思う方も少なからずおられるだろう。その代表を務める高雄きくえ達が中心となって企画されたイベントが、本書のタイトルともなる"被爆70年ジェンダー・フォーラムin広島"だ。被爆という事象を、男性中心社会の中でステレオタイプに語られてきたとの視点から、それらを原爆投下70年の節目に、ジェンダーの視点で問い直そうと試みた4つのセッションと、全体討論の全記録だ。その切り口は表象、沖縄、アメリカ、在日、戦争、クィアと多様。言葉として記録していくことは、草の根の力であり、これがムーブメント(社会運動)なのだと考えさせられる一冊である。

C/タ

弟の夫

田亀 源五郎/著  

双葉社

 最近、LGBT(性的少数者を限定的に指す言葉。レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に診断された性と、自認する性の不一致)の頭文字をとった総称)に関する新聞記事などを目にする機会が増えてきた。多様な性のあり方を認めようとする社会の変貌は好ましい。
 一方で、「社会」ではなく、「自分自身」または「自分の身の周り」となったとき、私たちはどのような態度を取れるだろうか。
 本書は、弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、「弟の夫」と名乗るカナダ人のマイクがやって来たところから始まる。弥一の双子の弟は、カナダでこのマイクという男性と結婚していたのだ。
同性愛者への差別や偏見の目をまだ知らない小学生の夏菜は、1人の人間としてマイクと仲良くなっていく。一方、弥一は娘とマイクの言動から、自分自身が無意識のうちに抱えていた偏見に気づいていき、一緒に時間を過ごすなかで同性愛者への固定観念が少しずつ解けていく。
 ゲイ漫画家として海外でも評価が高い著者は、まずゲイという存在そのものについて、知ることからはじめてほしいという。そこから1人ひとりが考えていってほしいのだと。
 弥一といっしょにとまどい、考えていくことで、「誰か」のことではなく、「身近な自分のこと」として多様な性を受け入れ、理解が深まっていく、そんな作品である。

33/シ

子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析

柴田 悠/著

勁草書房

 これまで、財政上のお荷物と捉えられてきた社会保障。しかし本書は、「現役世代向けの」社会保障である子育て支援と就労支援のうち、特に子育て支援こそが「日本を救える」と、客観的なデータと緻密な統計分析を用いて提言をしている。現在の日本において、日本社会の労働生産性を高め、財政赤字を減らし、出生率を高め、自殺を減らし、子どもの貧困を減らすと期待できるというのだ。
 また、財源確保の一例として、相続税の課税対象拡大、資産税・所得税の累進化などを組み合わせた「小規模ミックス財源」を提唱。国民一人あたりの負担率を抑えることで国民の合意を得やすく、かつ十分に捻出可能であることを示している。
 本書でひとつ気になるのが、女性移民の労働活用が有効としている点。その場合、「外国人」であり、かつ「女性」という二重で弱い立場に置かれる可能性もあることから、差別や搾取に遭いやすく特別な保護が必要なことも十分に考慮されなければならないだろう。読んでおきたい一冊。